2014年3月27日木曜日

今日のスペイン語(7)  アドルフォ・スアレス語録

 今月23日、アドルフォ・スアレス(Adolfo Suárez González)元スペイン首相が亡くなった。享年81歳。1975年にフランコ総統が死去してからの民主化過程(transición democrática)で大役を果たし、特に76年から81年にかけて首相(Presidente del Gobierno)を務めた間に、民主的選挙の実施や憲法制定等多くの業績を残したことで知られる。スペインの民主化を成し遂げた最大の功労者と評価され、ここ数日スペインの報道は故スアレス首相特集を組み、追悼記事を多く載せている。スペインは、フランコ体制から見事に民主化を成し遂げた国として知られており、特にスアレス氏現役時代のスペイン政治情勢には、私自身数々の思い出がある。今日は、スアレス語録の中でも殆どのスペイン人が覚えている名科白をいくつかお届けしたい。
 
--"Hay algo que ni siquiera Dios pudo negar a los hombres: la libertad."


(訳)たとえ神でも、人間から奪うことのできなかったものがある。それは自由だ。
(解説)スアレス氏はもちろんカトリックである。フランコ体制直後、依然としてキリスト教が国民生活の中に浸透しており、教会の影響力が絶大であった時期に、神との比較で自由への希求をこのような表現で公言するのは、大変勇気のある行動であったに違いない。

 
--”El futuro no está escrito, porque sólo el pueblo puede escribirlo.”

(訳)(我々の)未来は既に決まっているのではない。未来を作るのは人民である。

(解説)”está escrito.”は、聖書にある表現(Escrito está.)で、(人間や世界の)運命は既に神によってシナリオが全て決められており、それは聖なる書に書かれているという意味。スペイン語版新約聖書のマタイによる福音書に、イエスの言葉として、みなさんよく御存じの、次の記述(人はパンのみにて生きるものに非ず)がある。

Escrito está: ``NO SOLO DE PAN VIVIRA EL HOMBRE, SINO DE TODA PALABRA QUE SALE DE LA BOCA DE DIOS.

 脇道に逸れてしまうが、外国映画でよく”It is written.”という科白が出てくる。これも同じこと。記憶に新しいのは、スラムドッグ・ミリオネア。ムンバイに住む貧しいジャマルがクイズ番組に出演して正解を重ね、いよいよ最後の問いに正解すれば2000万ルピーを手にできる。実は、映画の冒頭、スクリーンに「何故彼(ジャマル)はここまで来れたのか?」という(観客に対する)クイズが現れる。4択形式で、「ずるをしたから」、「ラッキーだったから」、「彼は天才だから」、または「運命だから(It is written.)」のいずれが正解でしょうか?という問いかけである。答えの知りたい方は映画を観ましょう。

 
--Un político no puede ser un hombre frío. Su primera obligación es no convertirse en un autómata. Tiene que recordar que cada una de sus decisiones afecta a seres humanos. A unos beneficia y a otros perjudica. Y debe recordar siempre a los perjudicados..."

(訳)政治家は冷酷であってはならない。彼の最も大切な務めはロボットになることではなく、彼の下す決定の一つ一つが人々に及ぼす影響を忘れないことである。その決定で恩恵を得る人も損害を被る人もいる。彼は、この損害を受ける人達に思いを致さなければならないのである。
(解説)コメントの必要もないほど当たり前のことだが、いい言葉だなあ。

 
--"La vida siempre te da dos opciones: la cómoda y la difícil. Cuando dudes elige siempre la difícil.”

(訳)人生ではいつも2つの道が示される。安易な道と困難な道である。(いずれを選ぶか)迷ったら、常に困難な道を選びなさい。

(解説)スアレス氏は、43歳の若さで首相就任を要請された時、首相になってから国内和解や地方分権等の難しい問題に対して決断を下してきた時、当時の状況を想像するに、彼の選んだ道は本当に困難な選択肢だったと思う。常人にはなかなかできることではない。

 

--"La transición española dará un ejemplo al mundo".

(訳)スペインの民主化は、世界の模範例となるであろう。
(解説)世界の他地域、他諸国で民主体制への移行が行われてきたが、多くの諸国で困難を抱えている。スペイン国内にも、今でもいろいろな意見があり、さまざまな思いを持つ人がいるのだろうが、世界地図を俯瞰して多くの事例を比較すると、スアレス氏の言った通りと思う。

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