(日本語オリジナル)タイにおける政変について(外務大臣談話)
平成26年5月22日
1 5月22日,タイにおいて,プラユット陸軍司令官を中心とする「国家平和秩序維持委員会」が国家の全権を掌握する事態が発生したことは遺憾である。
2 我が国は,民主的な政治体制が速やかに回復されることを強く求める。
3 これまでのところ,在留邦人に被害等が出たとの情報はないが,引き続き在留邦人に対して情報提供・注意喚起を発出する等,邦人の安全には最大限の注意を払っていく。
(スペイン語訳)
Declaración del
Ministro de Asuntos Exteriores, Sr. Fumio Kishida, sobre el Golpe de Estado
en Tailandia 22 de mayo, 2014
1 Es profundamente lamentable que el
Consejo Nacional para el Mantenimiento de la Paz y el Orden, liderado por el
Comandante en Jefe General Prayuth Chan-Ocha, haya asumido el pleno poder del
gobierno en 22 de mayo en Tailandia.
2 Japón insta categóricamente a los involucrados que la democracia en Tailandia sea restituida rápidamente.
3 El Gobierno japonés, que no ha
recibido por ahora informes de que haya heridos entre los japoneses en
Tailandia, continuará prestando máxima atención a su seguridad, proveéndoles
suficientes informaciones y alertas oportunas.
(解説)
1 クーデターは、元々フランス語の“coup d’etat”がそのまま日本語や英語に入ってきた政治用語。日本語では「政変」と訳される。スペイン語でもフランス語からの直訳である”golpe de estado”が使われる。
2 一方、クーデターの厳格な法的定義は聞いたことがない。(もし現行法律や条約に規定されていたら、是非教えてほしい。)そこで、スペイン語世界で最も権威のあるスペイン王立アカデミーの辞書を見ると、次のとおり記されている。“Actuación violenta y rápida,
generalmente por fuerzas militares o rebeldes, por la que un grupo determinado
se apodera o intenta apoderarse de los resortes del gobierno de un Estado,
desplazando a las autoridades existentes”
3 「クーデター」(golpe de estado)の他に、似たような単語が沢山ある。日本語でも、体制打倒、体制変更、反逆、謀反、政権簒奪、下克上、維新、革命など、似て非なる(?)言い回しが多いのはご存じの通り。スペイン語でも、思いつくだけで以下のとおり一杯出てきた。(括弧内は、多くみられる日本語訳を当てただけで、特段の政治学的定義や価値判断は加えていないので、念のため。)
--pronunciamiento(スペインで19世紀に多発。軍の一部が公に堂々と、かつ前もって、政権に対する不支持の意思を表明し(pronunciar)政権の退陣を促すもの。)
--golpe militar(軍事クーデター。ほぼクーデターと同義だが、主体が軍であることが明示されている。)
--rebelión(反乱)
--revolución(革命)
--motín(暴動)
--insurrección(反乱、蜂起)
--sedición(反乱、蜂起、暴動)
--levantamiento(決起、反乱)
--sublevación(反乱、動乱)
--subversión(転覆)
--revuelta(反乱、紛争)
--cambio de régimen(regime change)(レジーム・チェンジ。アラブの春と言われていた頃、リビアやエジプトの事態を表す用語として、米国当局者がよく使っていた。)
--putsch(元々ドイツ語だが、国際政治関係者の間では、ほぼクーデターと同義語的に、「プッチ」という発音のまま使われている。)
4 厄介なのは、異例な手法で政権が変わった場合、その事案の呼び方自体が政治的立場の表明となってしまうこと。「通常の政権交代」とか「革命」と言えば、政権の変更を支持する者と思われ、逆に政権の座から追われたグループは、同じ事態を「クーデター」とか「反乱」と呼ぶ。1973年のチリ、76年のアルゼンチン、1961年や79年の韓国で起こったことをクーデターと呼ぶのは、今や世界中でほぼ定着しているが、未だに世界各地で議論を呼ぶ事態が発生している。
今回のタイの政変では、外務大臣談話の公式英語訳が“coup d’etat”だったし、たまたま私は今タイに住んでいないので、このブログでも安心して“golpe de estado”と訳した次第。しかし、万一外国滞在中にこの種の出来事に遭遇したら、第三者たる外国人としては、軽々なコメントは控えて、慎重を期するのが得策と思う。
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