2014年5月25日日曜日

今日のスペイン語(67)  クーデター

 5月22日、タイで軍による「政変」が起こった。多くのスペイン語圏諸国にとって、クーデターは他人事ではない。クーデターと聞いただけで、自国の歴史と自らの体験が記憶の中から蘇ってくる人が未だに多い。日本政府が発出した外務大臣談話を訳してみた。

(日本語オリジナル)タイにおける政変について(外務大臣談話)
                                                                               平成26522

1 522日,タイにおいて,プラユット陸軍司令官を中心とする「国家平和秩序維持委員会」が国家の全権を掌握する事態が発生したことは遺憾である。
2 我が国は,民主的な政治体制が速やかに回復されることを強く求める。

3 これまでのところ,在留邦人に被害等が出たとの情報はないが,引き続き在留邦人に対して情報提供・注意喚起を発出する等,邦人の安全には最大限の注意を払っていく。

(スペイン語訳)
  Declaración del Ministro de Asuntos Exteriores, Sr. Fumio Kishida, sobre el Golpe de Estado en Tailandia    22 de mayo, 2014

 
1 Es profundamente lamentable que el Consejo Nacional para el Mantenimiento de la Paz y el Orden, liderado por el Comandante en Jefe General Prayuth Chan-Ocha, haya asumido el pleno poder del gobierno en 22 de mayo en Tailandia.

2 Japón insta categóricamente a los involucrados que la democracia en Tailandia sea restituida rápidamente.

3 El Gobierno japonés, que no ha recibido por ahora informes de que haya heridos entre los japoneses en Tailandia, continuará prestando máxima atención a su seguridad, proveéndoles suficientes informaciones y alertas oportunas.


(解説)
1 クーデターは、元々フランス語の“coup d’etat”がそのまま日本語や英語に入ってきた政治用語。日本語では「政変」と訳される。スペイン語でもフランス語からの直訳である”golpe de estado”が使われる。

2 一方、クーデターの厳格な法的定義は聞いたことがない。(もし現行法律や条約に規定されていたら、是非教えてほしい。)そこで、スペイン語世界で最も権威のあるスペイン王立アカデミーの辞書を見ると、次のとおり記されている。“Actuación violenta y rápida, generalmente por fuerzas militares o rebeldes, por la que un grupo determinado se apodera o intenta apoderarse de los resortes del gobierno de un Estado, desplazando a las autoridades existentes

3 「クーデター」(golpe de estado)の他に、似たような単語が沢山ある。日本語でも、体制打倒、体制変更、反逆、謀反、政権簒奪、下克上、維新、革命など、似て非なる(?)言い回しが多いのはご存じの通り。スペイン語でも、思いつくだけで以下のとおり一杯出てきた。(括弧内は、多くみられる日本語訳を当てただけで、特段の政治学的定義や価値判断は加えていないので、念のため。)

--pronunciamiento(スペインで19世紀に多発。軍の一部が公に堂々と、かつ前もって、政権に対する不支持の意思を表明し(pronunciar)政権の退陣を促すもの。)

--golpe militar(軍事クーデター。ほぼクーデターと同義だが、主体が軍であることが明示されている。)

--rebelión(反乱)

--revolución(革命)

--motín(暴動)

--insurrección(反乱、蜂起)

--sedición(反乱、蜂起、暴動)

--levantamiento(決起、反乱)

--sublevación(反乱、動乱)

--subversión(転覆)

--revuelta(反乱、紛争)

--cambio de régimen(regime change)(レジーム・チェンジ。アラブの春と言われていた頃、リビアやエジプトの事態を表す用語として、米国当局者がよく使っていた。)

--putsch(元々ドイツ語だが、国際政治関係者の間では、ほぼクーデターと同義語的に、「プッチ」という発音のまま使われている。)

 
4 厄介なのは、異例な手法で政権が変わった場合、その事案の呼び方自体が政治的立場の表明となってしまうこと。「通常の政権交代」とか「革命」と言えば、政権の変更を支持する者と思われ、逆に政権の座から追われたグループは、同じ事態を「クーデター」とか「反乱」と呼ぶ。1973年のチリ、76年のアルゼンチン、1961年や79年の韓国で起こったことをクーデターと呼ぶのは、今や世界中でほぼ定着しているが、未だに世界各地で議論を呼ぶ事態が発生している。

 今回のタイの政変では、外務大臣談話の公式英語訳が“coup d’etat”だったし、たまたま私は今タイに住んでいないので、このブログでも安心して“golpe de estado”と訳した次第。しかし、万一外国滞在中にこの種の出来事に遭遇したら、第三者たる外国人としては、軽々なコメントは控えて、慎重を期するのが得策と思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿